給与所得者が事業の赤字になった場合の注意点
巷では給与所得者が趣味などを仕事として行っていることとし、その趣味にかかった費用を事業所得で申告し、さらに赤字であることで給与所得と損益通算して所得税の還付を受けることができるという書籍が販売されていたりします。
趣味で収入があり、かつ、赤字である場合で給与で引かれた所得税が戻ってきたらみなさんうれしいですよね。
国税不服審判所の裁決がありますので、事業所得として認められなかった事例を見てみましょう。(平30-02-20裁決)
【概要】給与所得とネイルサロンの業務を行っていた。
ネイルサロンの業務に係る事業所得の金額の計算上生じた損失の金額があるとして、給与所得の金額と損益通算する内容の確定申告をした。
これに対し国税不服審判所はネイルサロンの業務が事業所得としては認められず損益通算の対象とならない雑所得であるとして更正処分等を行った。
【解説】事業所得と認められず還付は無効とされた。
安定した給与収入がある納税者が、副業としてネイルサロンを行っていたが、利益を追求する行動が少なく、肉体的労力も少ないことから事業所得とは認めないとしたものです。安易に副業で赤字がでたら給与所得と損益通算して所得税の還付を受けられるとは考えないでください。
あくまでも実態が事業として認められなければなりません。
詳しくは下記に、裁決内容を記載しておきますので気が向いた方は参考にしてください。
【内容】問題となったのは、ネイルサロンの業務が事業得に該当するか
事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得と解されるが(最高裁昭和56年4月24日判決)、具体的に特定の経済的活動により生じた所得がこれに該当するといえるかは、当該経済的活動の営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無のほか、自己の危険と計画による企画遂行性の有無、当該経済的行為に費やした精神的、肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無、当該経済的行為をなす資金の調達方法、その者の職業、経歴及び社会的地位、生活状況及び当該経済的活動をすることにより相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するかどうか等の諸般の事情を総合的に検討し、社会通念に照らして判断すべきであるとされている。
① 営利性、有償性及び反復継続の有無があるか
納税者は継続的に行われ、毎月3名から6名の顧客に対する売上げが発生し、実際に報酬の授受があり、また、他店舗視察なども継続的に行われているから、営利性、有償性及び反復継続性があるとして営利性等はあると主張
国税不服審判所は、実際に継続して施術していることから一応の有償性および反復性はあると認めたが、売上よりも数倍の必要経費があり多額の損失が生じていることから経済的合理性に欠けるとして営利性は乏しいと判断した。
② 自己の危険と計画による企画遂行性の有無があるか
積極的な広告宣伝を行わず、赤字改善の手段を講じていないと認められることから、売上げを増大させるための事業計画の策定などを行ったとは認めることができず、企画遂行性は希薄であるとして認めなかった。
③ 精神的及び肉体的労力の程度について
フルタイムで給与所得の勤務先で勤務していたこと、勤務先の業務に支障を来さない程度の範囲にとどまっており、相当限定的なものであったと判断した。
納税者は事業計画の策定及び他店舗の視察などに一週間に37時間以上の労力を費やしていた旨主張したが、これらの記録の文書が保存されていなかったことから認められないとした。
④ 人的設備及び物的設備の有無があるか
自宅のリビングの一部に作業用の机及び椅子などを設置していることから、一定の人的設備及び物的設備があることは認められる。
⑤ 相当程度の期間安定した収益を得られる可能性について
赤字が続いていること、そして赤字を改善する手段を講じていたとは認められないことからこれについても認められない。
以上のことから、営利性は乏しく、企画遂行性は希薄であり、精神的及び肉体的労力も限定的であり、安定した給与収入があり、さらに、安定した収益を得られる可能性が存するとは言えないとして事業所得には当たらないとした。
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