会社が従業員の福利厚生のためにさまざまな支出をすることで節税ができると聞きましたが、どのような経費が福利厚生費として認められるのか教えてください。
福利厚生は、従業員のモチベーションアップ、従業員の定着など経営を円滑に行うのにとても重要な役割を果たすことがあります。ぜひ、うまく福利厚生を活用して従業員の満足度をあげましょう。それでは、どのような福利厚生費があるかみていきましょう。
代表的なものとして次のようなものがあります。
・忘年会などの慰安会
・社宅
・社員旅行⇒今回はこれを検討します
・慶弔見舞金
・残業時の食事代
・外部の福利厚生サービスの利用
・通勤費
・健康診断費用
・常備薬
・社内同好会への補助
・制服代
・レクリエーション旅行
・保養所
・研修旅行
・保険
・永年勤続表彰
さまざまな福利厚生があることがわかると思います。
しかし、上記の項目であればなんでも福利厚生費として経費処理としてできるわけではないのです。
福利厚生費として認められるポイントが3つあります。
- 全社員を対象としていること
- 支出金額が社会通念上(常識的に)高額でなく、通常要する費用として一般的な範囲内であること
- 原則として現金支給ではないこと(慶弔見舞金など一部例外はあります)
このポイントだけで福利厚生として認められるかを判断するのは、とても難しいと思います。
福利厚生は明確な規定があるわけではなく、金額についても『社会通念上』や
『通常要する費用として一般的な範囲内』など曖昧な判断基準となっています。
福利厚生費となるものを上記であげましたが、それぞれ判断基準が異なってきますのでご注意ください。
今回は、この中から社員旅行について検討してみます。
質問
『社員旅行を考えているけれど、金額や日数や旅行場所などの要件は何かあるの?それとも、なんでもいいの?』
答え
専門家でも、お客様にこのような質問を受けたときに何でもいいよと返答したり、家族旅行もOKという人もいるようです。
税務調査があった場合は、このように要件を確認せずに処理していると否認(認めてもらえない)される可能性があります。
まず、家族旅行は原則として認められませんのでご注意ください。
それでは、社員の慰安旅行が福利厚生費として認められるかの要件をみましょう。
・旅行日数が4泊5日以内(海外の場合は滞在日数)
・旅行に参加する従業員の数が全従業員の50%以上
(工場、支店等で行う場合には、当該工場、支店等の従業員等)
・旅行に参加しなかった従業員に旅行代相当の手当を支給しない
・旅行先での写真や旅行資料など実際の旅行内容を証明できる資料を残す
・社会通念上相当と認められる金額であること
明確な規定は無いので専門家によって多少の解釈が異なることはあり得ますが、基本的にはこれらの条件を満たしているかを総合的に判断して経費として認められるか否かを判断することが多いでしょう。
これらのうち、最初の2つは通達の規定で明示されています。
⇒所得税基本通達36-30
(課税しない経済的利益・使用者が負担するレクリエーションの費用)
最初の2つ以外については総合的に判断します。最後の社会通念上相当と認められる金額について、次のような裁判例があります。
福利厚生費として認められなかった事例⇒給与課税
東京高判平成24年12月25日税務訴訟資料第262号-272(順号12122)
(概要)
一人当たり約24万円の旅費を全額負担したマカオへの2泊3日の慰安旅行が、給与等の支払いに該当した事例
本件旅行に参加することにより享受する経済的な利益の額が少額であると認めることはできないと判断されました。
(検討)
金額もあると思いますが、旅行の内容が①一流ホテルに1人1部屋で宿泊したこと、②食事についても最高の食事をと指示していたこと、などから旅行に参加することにより享受する経済的な利益の額が少額であるものとは認めることができないとして、所得税基本通達36-30の「役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる」行事に該当するということはできないとされました。
このように、金額はもちろん重要項目になりますが内容も関係してくることがわかります。すべてが高級な場合は一般的な範囲外とされる可能性が高いでしょう。
これ以外にも、次の事例は給与課税されました。
平成10年6月30日裁決:3泊4日の九州旅行で1人の負担額約192,000円
平成14年4月11日岐阜地裁:
4泊6日のシンガポール旅行で1人の負担額約205,000円(平成8年分旅行)
4泊6日のサイパン旅行で1人の負担額約200,000円(平成9年分旅行)
4泊6日のバンコク旅行で1人の負担額約165,000円(平成10年分旅行)
これは3年分すべてが給与課税とされました。
一方で、認められた事例として次のものがあります。
平成3年7月18日裁決:タイのバンコクへ旅行で1人の負担額約184,000円
平成14年の岐阜地裁でバンコク165,000円が給与課税となり、平成10年の九州は国内旅行で、かつ、負担額192,000円でも給与課税されたの対し、平成3年のバンコク旅行は負担額184,000円でも福利厚生費として認められました。
このように、金額や旅行先だけでは単純に判断することはできないことがわかると思います。
20万円以上は否認される可能性が非常に高く、15万円以上も否認される可能性もあるでしょう。10万円程度であれば福利厚生費として認められるでしょう。
従業員慰安旅行は税務調査の際は必ずといっていいほど確認する事項になりますので、10万円~20万円の会社負担を考えている場合は、給与課税とされるリスクがありますので、慎重に判断しましょう。
裁判例がすべて正しいとは言えないとは思いますが、このように、裁判例を参照した解釈も必要になってきます。また、認められた裁決がありますので、旅行内容をしっかり検討して実施しましょう。
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